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東京地方裁判所 昭和28年(ワ)11300号 判決

東京都民銀行

事実

原告株式会社東京都民銀行は請求の原因として、訴外内田芳三郎は被告東京都との間に昭和二十八年二月二十一日附契約により染井霊園管理事務所新設工事を代金五十一万五千円を以て請負い、右工事は同年五月中完成して被告に引き渡された。これより前、原告は右訴外人の要請により同人に対し工事費として合計金五十万円を貸与し、その弁済方法として右訴外内田が被告に対して有する前記請負代金五十一万五千円の請求及び受領の権限を原告に委任する形式の下に右債権を譲渡し、被告は昭和二十八年四月二十一日これを承認した。然るに被告は右訴外内田の請求に応じ前記請負代金を昭和二十八年六月十六日頃支払つた。しかし、右弁済は無効であるから原告は被告に対し右代金並びにこれに対する年五分の利息の支払を求めると述べ、更に予備的に、仮りに原告と右訴外内由との契約が本件請負代金債権の譲渡でないとしても、被告は原告に対して右請負代金の支払を確約したものであるから、被告の弁済は無効であるか、若しくは原告に対抗するを得ないと述べた。

被告東京都は答弁として、訴外内田芳三郎と被告との間に原告主張の如き請負契約が成立し被告においてその引渡を受けたことは認めるが、原告が右訴外人より右工事請負代金の債権譲渡を受け、且つ被告がこれを承認した事実は否認する。原告は単に右訴外人から本件請負代金の受領権限の委任を受けたに過ぎないと述べ、原告の予備的原因に対しては、被告が原告に対しその主張の如き趣旨の確約をした事実はない。被告の公園緑地部長が訴外内田の原告に宛てた本件請負代金受領の委任状に「承認する」と記載したのは、右訴外内田が被告に対しその記載の如き請負代金債権を有することを証明すると共に、右代金の受領権限を承認する趣旨に過ぎないと述べた。

理由

証拠によれば訴外内田芳三郎が原告株式会社東京都民銀行に対して本件請負工事代金五十一万五千円の請求並びに受領の権限を委任したことを認めることができ、また右委任状には被告東京都の公園緑地部長がこれを承認すると記載している事実を認めることができる。原告は右委任を以て右工事代金債権の譲渡であると主張するけれども、代金受領権限の委任と債権譲渡とはその性質を異にしているから、仮りに当事者間に右のような意思の合意があつたとしても債権譲渡は隠れた行為に外ならない。従つて当事者間においては拘束力を有しても第三者を拘束するものではない。尤も、前記承認と記載した趣旨が右隠れた債権譲渡を承認する趣旨であるとするならば、これを記載した前示公園緑地部長の権限は別として一応債務者たる被告を拘束するものと為し得ようけれども、本件においてこの点の立証は全くないから、原告の主張はこの点において失当である。

原告は更に債権譲渡でないとしても、被告は原告に対して本件請負代金の支払を確約したと主張し、前記承認の趣旨を被告の原告に対する請負代金支払の契約であると主張するが、本件委任状の記載によつては右承認するとの趣旨が右原告主張のようには解されないのみならず、証人の証言によれば、右承認するとの趣旨は被告主張の如く、本件請負代金債務の存在と原告の受任の権限を承認する趣旨であることを認めることができ、右証言は右委任状の全体の趣旨に適合する。従つてこの点の原告の主張も理由がないとして原告の請求を棄却した。

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